M&Aそのものは古くから行われてきましたが、最近は、大企業だけでなく中小企業や小規模事業者、あるいは個人事業主に至るまで幅広く行われるようになってきました。このM&Aは、いろいろな面から捉えることができます。M&Aスキームから見ると支配権を目的にするものと、しないものに分けられます。また、対象企業の面からは、国内企業同士で行う国内M&Aと、国内企業と海外企業との「クロスボーダーM&A」、「アウトバウンドM&A」などと呼ばれる海外M&Aに分けることもできます。
 このように国内、海外M&Aとも盛んに行われていますが、国内M&Aが増えている理由としては、主に中小企業の事業承継の有効手段として行われるものです。急速に進む少子高齢化による後継者不足の新たな手段としてM&Aが注目されていることによります。
 一方、海外M&Aが盛んになってきた理由としては、バブル崩壊後の長引く不況からアジアなどの海外市場に活路を見出そうとしたこと、また、少子高齢化による人口減少から国内市場が縮小していることといった構造的な原因によります。
 では、日本企業が海外M&A行う理由について解説していきたいと思います。

日本企業が海外M&Aを行う理由は?

 冒頭でも述べたように、近年、日本企業が積極的に海外企業をM&Aで買収する理由としては、少子高齢化による国内市場の縮小から、国内市場への投資の絞り込み、代わって中国やインド、ASEAN諸国といった成長著しいアジア諸国などへの海外M&Aを盛んに行っていることによります。
 海外M&Aには、海外企業が日本企業をM&Aにより買収するもの(インバウンドM&A)と、逆に日本企業による海外企業のM&A(アウトバウンドM&A)とがあります。前者は、1990年代に盛んに行われていました。当時はバブル崩壊の後処理のため、欧米を中心とした海外企業のM&Aが行われ、これが行き過ぎ2000年代初頭の「買い叩き」、「ハゲタカファンド」、「敵対的買収」といった言葉に代表される、強引なM&Aが行われた時もありました。
 その後は、こうした海外企業による日本企業の強引なM&Aは減少するとともに、日本企業による海外M&Aが先の理由により急増することになります。現在では、取引案件数でも取引金額でも、日本企業による海外企業のM&Aが海外企業による日本企業のM&Aを上回っています。特に、取引金額では国内M&Aと海外企業による日本企業のM&Aを合わせた金額の2倍以上にもなっています。
 そのため、かつては海外M&Aなどとは無縁と考えられていた、中小企業や小規模事業者までもが、盛んに海外企業をM&Aにより傘下に収めています。少子高齢化、多死社会などの構造的な原因による人口減少、国内市場縮小といった問題が解消されない限り、当分続くものと思われます。
 ただ、この日本企業による海外企業のM&Aは、国、人種、言葉、文化、そして、大きく異なる商習慣、経営システムなどの特殊性から難しい面も多く、思ったほどの成功率にはなっていません。
 上場企業のような我が国を代表する大企業でも、海外M&Aがうまくいかず、数千億円から1兆円を超える巨額の損失を計上する事件も少なくないのが実状です。
 では、日本企業が海外M&Aを行う理由をもう少し詳しく見ていきましょう。

海外M&Aを行う理由−水平的M&A

 水平的M&Aとは、同業他社をM&Aにより買収し、規模の経済効果といった財務シナジーにより売上、利益の増加を目指すものです。過当競争で収益性の低い国内企業よりも、成長性が期待できる海外企業をターゲットにするものです。

海外M&Aを行う理由−垂直的M&A

 これは海外仕入先、生産委託先、物流企業といった取引関係にある海外企業をM&Aにより買収し、自社を中心とした「バリューチェーン(価値連鎖)」を形成し、コストシナジー効果を出すことで、収益性を改善するために行うものです。

海外M&Aを行う理由−社内ベンチャー(CVC)

 企業によってはベンチャー事業に投資し、当該ベンチャー事業が生み出す新たな技術やビジネスモデルを既存事業に取り入れ、シナジー効果を出す戦略をとることがあります。すべてを自前でやるより効率がよいためです。そのため、ベンチャー企業の集積するシリコンバレーなどに常駐し、M&Aチャンスをうかがったりします。

海外M&Aを行う理由−ジョイント・ベンチャー(JV)

 通常のM&Aのように支配権の獲得を目的とせず、海外企業との緩やかな関係を構築しながら双方が「win-win」の関係を目指す場合、あるいは、ある国の法律上、海外企業による自国企業の持株比率を過半数以上とすることも認めないといったところもあります。そこで、やむなくジョイント・ベンチャーという緩やかなM&Aを行うこともあります。

 このように、日本企業が海外M&Aを行う理由としては、まず、人口減による国内市場の縮小といった構造的な問題を前提として、海外M&Aによる規模の経済性といった個々の企業の戦略上の理由が相まって、近年急増しているものと思われます。